評技⑪ ハンス・シルベスター氏の「ギリシャの猫」
 ハンス・シルベスター氏の「ギリシャの猫」という写真集を見たのがギリシャに旅立ったきっかけだった。青く美しいエーゲ海と白く塗られた建物のコントラストがすばらしいミコノス島。海へと垂直に落ち込む断崖の上の白い街並みが夕日に映えるサントリーニ島。陽だまりの中で自由気ままに生きる猫たち。想像していた以上に、とても美しい島だった。
 この猫たちは、もともとはねずみ対策に舟で飼われていた猫の子孫らしい。今は誰かに飼われているわけではなく、みんなノラ猫だ。しかし町の人々は実にこの猫たちをかわいがっている。漁船が港に戻ると猫たちが何となく集まってくる。漁師のおじさんたちも心得たもので、余った小魚などを投げてやる。かと思えば別の路地ではおばあさんがえさをやっている。えさをもらう猫は、当然の権利と言った風情で、悠然と食べている。
 この島では、猫のみならず犬も同じように暮らしている。屋根の上で気持ちよさそうに昼寝を決め込む犬や、海を見つめる犬、飼い主なしで自由に散歩を楽しむ犬。つながれている犬はあまり見なかった。観光客が多いせいか、見知らぬ人に吠えかかるようなこともない。ここでは、猫も犬も同じ島で暮らす仲間なのだ。

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