技⑤ 田子の浦にうちいでて見れば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ
「田子の浦にうちいでて見れば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ」と百人一首の名歌でも知られる「田子の浦」は、現在の静岡県富士市にある同名の地だとされる。実際、駿河湾の沿岸のこのあたりからは、富士がよく見える。
 ところで、駿河湾沿岸のもう一つの名物をいえば、この地方でもっぱらとれる桜えびである。富士市から少し西に行った由比町では、特に桜えび漁が盛んで、由比駅の近くには、「日本一桜えびの町」と大書きされているのがほほえましい。
 だが、このえびが盛んに水揚げされるようになったのは、近年のことだという。というのも、桜えびはふだんは深い海の底に生息していて、漁網にかかることがない。ただ、闇夜には水深70メートル位まで上がってくるのだ。明治の初めごろ、夜の漁で偶然浮きがはずれた網が下りていき、思わぬ桜えびの大漁になった。それ以来このえびの漁法がわかり、この地方の名産にまでなったそうだ。
 「日本一」という由比町の意気込みももっともで、このえびがとれるのは、駿河湾の近辺に限られる。富士の雪解け水に含まれるカルシウムがその生育に不可欠らしく、この海の幸も富士の嶺からの贈り物といえるのかもしれない。

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